切削、プレス、板金、溶接といった金属加工は、日本の中小製造業の中でも最も多くの企業が携わっている領域です。多品種少量生産、熟練者の勘に頼る工程管理、老朽化した設備など、他の業種にはない独特の課題を抱えています。この記事では、実際に報告されている導入事例をもとに、金属加工の現場にデジタルツイン・IoTがどう役立つかを解説します。
金属加工の現場が抱えやすい課題
「動いているはずなのに、稼働率が分からない」
金属加工の現場でよく聞かれるのが、設備は動いているはずなのに、実際の稼働率が正確に把握できていない、という悩みです。ある鋳造工場では、装置の稼働率が分からず、停止が起きた際にそれが故障によるものなのか、ライン設計そのものに問題があるのかを切り分けられないという課題意識から、無線センサを使った稼働監視システムの開発に取り組んだ事例が報告されています。原因が分からないまま対応に追われる状態は、多くの金属加工現場に共通する悩みです。
熟練者の「経験と勘」に頼った工程管理
切削加工では、刃物の摩耗具合や加工時の異音など、熟練者の感覚に頼って品質を維持している工程が数多く存在します。こうした「経験と勘」をリアルタイムの計測データとして数値化し、形式知化しようとする取り組みも進められています。属人化した勘をデータに置き換えることは、技能継承という観点でも重要な意味を持ちます。
夜間・休日の設備確認という負担
熱処理炉のように長時間の稼働を必要とする設備では、夜間や休日でも稼働状況を確認するために工場へ出向く必要が生じることがあります。ある事例では、工場外からでも熱処理炉の稼働状況を把握できる仕組みを導入したことで、確認のためだけに出社する負担が軽減され、緊急時には遠隔から炉を停止させることも可能になったと報告されています。常に稼働状況を確認できるという安心感そのものが、現場の負担軽減につながっています。
金属加工におけるデジタルツイン・IoTの具体的な使い方
稼働監視から始める
まず取り組みやすいのが、設備の稼働・停止状態をセンサーで捉え、可視化することです。「いつ、どのくらい動いているか」が数値で見えるようになるだけで、故障なのか、段取り替えなのか、設計上のボトルネックなのかを切り分けやすくなります。大がかりな投資をせずとも、市販の安価なセンサーを組み合わせるだけで着手できる場合が多く、低コストなIoT導入によって生産性向上を実現した中小企業の事例も広く知られています。
振動・温度データで異常予兆を捉える
プレス機や切削機の振動、熱処理炉の温度分布など、設備ごとに特有のセンサーを設置することで、通常時のパターンを蓄積できます。蓄積されたデータと比較することで、これまで「壊れてから気づく」しかなかった異常を、予兆の段階で捉えられるようになります。
図面のない設備を3Dスキャンでデータ化する
金属加工の現場では、古い設備の図面が残っていない、あるいは改造を重ねて図面と現物が一致していない、というケースが少なくありません。3Dスキャンを使えば、現物をそのまま点群データとして取り込めるため、図面の有無に関わらず、レイアウト変更の検討や設備移設の事前検証が可能になります。
小さく始める、という進め方
金属加工の現場でも、いきなり工場全体をデジタル化する必要はありません。まずは稼働状況が分かりにくい一台の設備、あるいは夜間の確認負担が大きい一つの工程から着手し、効果を確認しながら範囲を広げていくのが現実的です。
まとめ
金属加工の現場では、「稼働率が分からない」「熟練者の勘に頼っている」「夜間・休日の確認負担が大きい」といった、業種特有の悩みが数多く報告されています。稼働監視からセンサーによる異常予兆の検知、3Dスキャンによる設備のデータ化まで、小さな一歩から取り組むことで、これらの課題に着実に向き合うことができます。
参考
- 岩手県工業技術センター「中小企業へのIoTシステム導入 事例紹介」(産業技術連携推進会議 製造プロセス部会 IoTものづくり分科会、令和4年)
- ロボット革命イニシアティブ協議会「中堅・中小製造業のIoT活用事例集」
- コネクシオ「ものづくり企業がIoT導入で変わる!実践事例と導入のコツ」
